カワセミは撮影対象となる野鳥の中で最も人気があり、実際に多くのカメラマンがカワセミを撮っています。と同時に撮影目的で餌付けされることの最も多い野鳥でしょう。公園などで撮影のための餌付けが日常化してしまった今、その影響をカワセミの立場に立って少し考えてみませんか。カワセミは自然の中で生きている野鳥です。決して飼われたペットではありません。必ずしも良くはない環境にも順応するようになり、餌を与えなくても、餌のある場所を探して生きていけます。餌付けしなければカワセミが来ないと思われている方もいるようですが、それは違います。ただ撮影に都合の良い場所に来ないだけで、カワセミは自然の中で観察できますし、撮影も十分にできます。事実同じ公園内でも餌付けをしていない別の池にカワセミは来ているのです。同じ川でも餌付け場所から数百メートル上下流でちゃんと餌を捕って生きているのです。勿論餌付けとは全く無縁な公園や川にもカワセミはいます。 特に公園は、自然を感じることのできる最も身近な場所です。その公園で、自然の中で生きる美しいカワセミに接してこそ、素晴らしいカワセミとの出会いがあるのではないでしょうか。 私がカワセミに初めて出会った場所は、公園で餌付けされていた場所でした(1996年12月)。もし餌付け場所に群がっていた大勢のカメラマンが目にとまらなければ、生涯、カワセミの存在に気づかなかったかもしれません。またそのすぐ後につがいの誕生、繁殖行動、巣立ちを別の公園の餌付け場所で間近に観察する機会に恵まれなければ、恐らくここまでカワセミに興味を持つことはなかったでしょう。しかし撮影を始め(1997年2月)、カワセミと付き合っているうちに、餌付けの問題点を実感するようになり、餌付け場所での撮影は一切やめました(1998年1月以降)。撮影するときにだけ餌を与える行為は、明らかにカワセミの行動パターンを変えてしまいますし、縄張り内に棲息していない魚などの餌を与えることで、生態系に影響がでることも考えられます。一見、簡単に魚が捕れるのでカワセミが喜んでいるようでもありますが、多くのカメラマンが間近で大砲レンズを向けていること、公共の場故に一ヶ所に大勢のギャラリーが集まることで、カワセミにストレスを与えている可能性は非常に高いです。さらに餌付けに用いる容器によっては嘴が欠けたり、羽が傷ついたりしていますし、頻繁に至近距離で使用されるストロボの影響も心配です。 実は昨年ある公園で餌付けされていたカワセミの嘴が欠けているのに気づき、大きなショックを受けました。約3ヶ月間、しかも繁殖時期にその個体が餌付け場所を縄張りにしていました。そして姿を消してから(恐らく死んだ)、その後に同じ餌付け場所にきた個体が、やはり嘴が欠けてしまいました。その個体は2週間後には見られなくなりました。カワセミは獲物を狙って水中へ飛び込むときが最も飛翔のスピードが速いですが、空中で獲物の動きに反応して瞬時に向きを変えたり、身体をひねったり、かなり無理な体勢になることがあります。それで餌付けの容器が固定されずに風などで動いたりすると、容器の上部に激突する可能性は極めて高いです。しかも嘴が閉じていれば強度も保てますが、飛び込む直前には嘴が開かれてた状態なので、その強度は半分以下になっています。容器の上部が硬い素材であれば、衝突時に間違いなく欠けてしまいます。とにかく今まで無数の個体を観察していまが、嘴の欠けた個体などに出会ったことはありません。ですから短期間に同じ場所で採餌していた2個体の嘴が欠けるなどということは、偶然では決して起こりえないし、私は餌付け場所では撮影しないので、嘴が欠ける決定的な瞬間の証拠写真を撮っている訳ではありませんが、餌付けの容器が原因であったことに間違いないでしょう。 カワセミにとって嘴は、採餌だけではなく、給餌や巣穴堀りにも不可欠なもので、嘴が欠けるということは、まさに「死」を意味することになります。 最初に下嘴が欠けたオスを見かけたのは、12月初めでした。1月になってメスが現れ、繁殖行動が始まりましたが、同じ枝に、しかも1m以内に並ぶようになっても、肝心の巣穴堀りを始めることもなければ、求愛給餌もすることがないのです。恐らく嘴が欠けているため巣穴堀りができなかったのでしょう。巣穴がなければ、当然メスは卵を産むことができませんから、交尾もありません。実際求愛給餌はできませんでした。魚を捕ってメスの傍にきても、魚の頭部を先にしてくわえることができないのです。メスは随分辛抱強く待ったと思いますが、さすがに1ヶ月以上も巣穴を掘ろうとしない、給餌もしようとしないオスにしびれを切らせてしまったようで、別のオスの接近を許すようになりました。一度、オスが魚を捕ってきても給餌をしないので、メスが魚を捕りに行き、オスの目の前で、「給餌はこうするのよ」って教えてあげているような光景を目撃しました。オスもメスもとても悲しい表情に見えて、何とも言い難い思いでした。 3月初、オスは突然消えました。メスはその後、別のオスとつがいになりました。3月末には、求愛給餌、交尾を数回観察できました。しかしこの時も何度か不可解な行動を目撃しました。メスが新しい相手のオスから魚を受け取ると、すぐには呑み込まず、魚の頭部を先にして、長いときには10分以上も、あたかも嘴が欠けたオスを待っているかのように、じっとしているのです。このメスも何かが、どこかが狂ってしまったのでしょう。結局4月末には、このつがいの姿も見えなくなり、繁殖は失敗しました。その間、嘴の欠けたオスがいなくなった餌付け場所に来るようになったオス(メスの新しい相手ではない)が、すぐに上嘴が欠けてしまいました。この個体は、半月後には姿を消しました。やはり死んだ可能性は否定できません。 一昨年は、やはり繁殖時期、まさに求愛行動が始まってすぐのことでしたが、オスが釣り人が放置したルアーの犠牲になりました。公園管理事務所で確認したところ、ルアーは餌付けの容器に放置され、そこへカワセミが飛び込み、針が刺さってしまったとのことです。確かに放置した釣り人が悪いことは言うまでもありませんが、そもそも池の中に餌付けの容器が存在しなければ、このような悲劇は起こらなかったはずです。 撮影目的の餌付けは、カワセミを傷つけたり、習性や行動パターンを変えてしまったり、様々な影響を与える可能性を孕んでいます。勿論餌付けをされている方々が、カワセミを傷つけることを意図しているとは決して思いません。しかし結果として傷つけるようなことになってもやめようとしないばかりか、その餌付けをエスカレートさせている現実を目の当たりにすると、私としてはもはや餌付け自体をはっきりと否定せざるを得ません。 カワセミのために餌付けはやめましょう。餌付けにつながるような度を過ぎた「ヤラセ」も慎みましょう。 それからストロボでの撮影もやめましょう。 カワセミの目は、水中へ飛び込む時と巣穴を掘る時に瞬膜で保護されます。よく観察していると気づきますが、特に日差しの強い時なども実に頻繁に瞬膜が閉じています。つまり光に対してとても敏感に反応しているということです。ですから光量の多少にかかわらず、人為的に光りを当てると何らかの影響を与える可能性はあると思います。まして撮影のためのストロボは、発光する瞬間がカワセミにはわかりませんから、当然瞬膜で保護されることはありません。いくら研究者に科学的には100%問題ないと言われても、自然界のこことですから、実際にカワセミに何が起こっているのかはわかりません。カワセミの立場に立って撮影を楽しみたいと思っているのであれば、万に一つでも危害を与える可能性を孕んでいることはすべきではないでしょう。 尚、当サイトで運営しているカワセミ写真掲示板でも餌付け場所で撮影した写真及びストロボを使用して撮影した写真は投稿をご遠慮いただいています。 ご意見をお寄せください。但し、匿名、中傷、脅迫メールは、読まずに削除させていただきますので、予めご了承ください。 2003年3月2日、嘴の欠けた個体の1周忌に寄せて・・・ top page |