カワセミの魅力

ブッポウソウ目カワセミ科、学名はAlcede atthis。
日本語では翡翠、「翡」はカワセミのオス、「翠」はメス。英語ではまさに「魚捕りの王様」Kingfisher(Common Kingfisher、River Kingfisher)。ドイツ語では何故か「氷の鳥」Eisvogel。世界中に亜種を加えると100種以上の仲間がいます。
「飛ぶ宝石」「川辺の宝石」「清流の宝石」等々の形容があります。「宝石」とは勿論「ひすい」のことですが、宝石の「ひすい」はカワセミの緑色(エメラルド・グリーン)の羽根の色に似ているところから「翡翠」と書きます。
全長17cmで、ほぼスズメ大。翼開長25cm。体重35〜38g。平均寿命2年(美鳥薄命!?)。

カワセミの魅力は何と言っても、構造色が生み出すブルー系の鮮やかな色彩です。同じカワセミでも青色部分が光加減によって微妙に色が変化して見えますが、それは羽の独特な微細構造に光が当たることで、特定の色の光が反射するからです。つまりカワセミの羽全体が青色だからではなく、羽の微細構造が輝くような青色を発しているということなのです。頭と額は濃い青緑色に青白色の斑点があり、肩羽、雨覆、風切は青緑色で雨覆にはコバルトブルーの斑点、風切には線があり、背から尾のつけねまでコバルトブルーです。翼の下面は橙黄色で、胸から腹にかけてと頬は橙赤色ですが、これらオレンジ系は、ブルー系の構造色とは異なり、メラニン色素によるものです。頬の後や喉、顎は白です。
オスとメスの見分け方ですが、オスの方が総じて色鮮やかで美しく、メスの下嘴は、まるで口紅を塗ったかのように赤くなっています(例外的に下嘴がほとんど赤くないメスがいることが分かっています)。また赤色が占める割合には個体差がありますが、下嘴の半分以上が赤くなっているのが普通です。尚、下嘴の基部が赤いオスもいます。嘴の内側はオスもメスも赤いので、オスでも下嘴が透けて赤色に見える個体がいるとも考えられます。同一個体でも光加減で相当違って見えるからです。
嘴は全長のほぼ3分の1にあたり、体と比較するととても大きく、魚を捕る時と巣穴を掘る時にその威力が発揮されます。極端に短い足は歩行には全く適しませんが、枝等から水中の魚を直接ダイビングして狙うので、実際に歩くことはほとんどありません。枝や石の上でちょこちょこ動く程度です。3趾は基部で癒着して合趾足。足の爪は黒い個体が多いです。

カワセミの捕食の瞬間もとても興味深いです。飛行は直飛で、低空、水面すれすれをまっすぐ速く飛びますが、すぐに水辺の枝や水中に突き出た石などに止まり、魚影を目で追い、見定めると体をひきしめ、ダイビングして魚を捕ります。その高さは1〜15m、低い所からは、獲物がすぐ下にいるときはまっすぐ飛び込み、先にいるときは放物線を描くようにして飛び込みます。高い所からは、獲物目がけて一直線に飛び込む場合と、水中に飛び込む直前に急ブレーキをかけスピードを緩めてから飛び込む場合があります。ダイビングに際しては、獲物の動きに反応して空中で瞬時に身体をひねったりして微妙に向きを変えることもあります。水中に飛び込む直前に嘴は開き、目は瞬膜で覆われます。
魚を捕って元の場所に戻るまでの時間はほんの数秒、水中に消えて1秒もしないうちに獲物をくわえて出てきます。飛び込むタイミングは獲物が一瞬静止した時や水面に浮いてきたときで、水中深く潜ると減速して獲物が逃げてしまうので、川底にいるヨシノボリやドジョウ、エビやザリガニなどは浅瀬で狙います。さすが魚捕りの王様、枝等からのダイビングでは、採餌の成功確率は80%くらいでしょうか、一度のダイビングで2匹も捕ることもあります(流石に2匹とも呑み込むことはできず、1匹は逃してしまいます)。特に大きめの魚は突き刺して捕ることもあります。一度捕まえた獲物は例え尻尾であっても滅多に逃しませんが、時には呑み込む寸前に落としてしまうこともあります。そんな時は逃した獲物の行方を目で追い、生きていればすぐにもダイビングして捕りますが、すでに死んでいるようなら捕ろうとはしません。
川原の石など低い場所に止まっているときや、高い所からダイビングを試みて魚影を見失ったときは、空中でホバリング(停空飛翔)して獲物を狙います。ただホバリング後の採餌の成功確率は50%以下でしょうか。ホバリングは通常3〜5秒間ですが、魚が見つからないときは稀に10秒以上続けることもあります。その時は空中で何度か高さや向きを変えながら魚を探します。ホバリング中の羽ばたきは15〜20回で、羽が見えないくらい激しく羽ばたきますが、空中で獲物に狙いを定めるために、頭部だけは全く動かずしっかり固定された状態になっています。強風の時は、風に向かってほぼ水平に羽ばたきます
好物は魚で、3〜7cmの小魚(オイカワ、アユ、フナ、モツゴ、ヨシノボリ、ドジョウ、カジカ等々)を主食とし、ヤゴ等の水生昆虫やエビ(公園の池等では多い)やザリガニなども食べます。ごく稀ですが、トンボやカエルも捕ります。1度の採餌で、魚が大きい場合は1匹、小さい場合は2、3匹続けて捕ります。魚が豊富にいるところでは、そのサイズが大きくなければ、1日50匹以上食べることもあります。採餌の間隔は朝夕は30分〜40分、日中は1時間〜2時間。捕った魚が小さいと元の場所に戻ってすぐに呑み込んでしまいますが、大きい場合は水面近くのお気に入りの場所へ移動して、枝や石に叩きつけたりして、骨などを砕いてから呑み込みます。よく見かける嘴に付いた白いものは、その時に付着した魚の鱗です。
カジカのような頭でっかちの魚や10cm以上の大きな魚、ザリガニを捕ったりすると、頭部が切断されるまで何度も繰り返し叩きつけたり振り回したりして、必死の思いで呑み込みます。何と20分以上も格闘することもあります。さすがに大魚を呑み込むと、消化器官の動きが活発になるのか、しばらく体全体が心臓の鼓動に合わせるように小刻みに動きます。体も重くなるせいか、糞を出すまで身動きがとれなくなるようなこともあります。魚は鰓が喉につかえないように頭部から、エビやザリガニなどは逆に尻尾から丸呑みです。それ故に求愛の時はメスが食べやすいように魚の頭部を前にして与えるのです。ちなみにカワセミには舌があります。
カワセミの消化器官はとても迅速に機能するので、呑み込んだものは30分くらいで消化するようです。10cm前後の大魚をそのまま丸呑みできるのも、胃袋が大きいからではなく、食道が長いからなのでしょう。魚数匹分の骨や鱗などの不消化物は、一塊(2x1cm)のペリットとして吐き出します。驚いたことに、1度に2個、3個続けて吐き出すこともあります(カワセミの胃袋は一体どうなっているの?)。ペリットを出した後は空腹になるようで、すぐに捕食行動にでます。糞は白い液状で、尻尾を少し上げて頻繁に排出します。カワセミがよく止まっている場所は、白い糞で汚れているのですぐに気づきます。

お腹がいっぱいになると、水浴びをしたり(水浴びの時は石の上からとか、30〜50cmの高さの枝などから3〜5回続けて飛び込む)、大切な羽毛の手入れをしたり、翼を広げて伸びをしたり、頭をかいたり、ブルブル身体を震わせたり、のんびり日光浴をしたりします。枝などに止まっている時は頭や尾を上げ身体を上下にピクピク動かしたり、欠伸でもするかのように嘴を開けたりしますが、長時間まったりしている状態は、腹部の羽毛で短足が隠れているので分かります。強風で枝が大きく揺れてもうまくバランスをとります。警戒心はとても強く、カワセミより小さな鳥が近くに飛んできてもあまり反応しませんが、大きな鳥(サギやカラス)などが飛んでくると上空を見上げたり、真後ろを見たり、また威嚇するような格好をしたりして警戒します。面白いことにあまり大きな鳥ではない天敵のモズ(実際にカワセミを襲う)などには敏感に反応しますが、大きなヤマセミには、やはり親近感があるのか逃げたりはしません。
時折目が白っぽくなることがありますが、それは水中ダイビングや巣穴掘りの時に、目を保護するために閉じられる瞬膜で、特に陽差しの強いときにはも頻繁に閉じます。ちなみに瞬膜は手前(額側)から奥へ閉じます。瞼は就寝時に下から上へ閉じます。
繁殖期はつがいで採餌場である縄張りを持ちますが、それ以外はそれぞれが縄張りを持って単独行動をとります。縄張りの広さは、通常川の場合、500m〜1kmですが、餌の豊富な場所では100m前後の間隔で数個体見かけることもあります。公園の池などでは、餌場となる場所を数ヶ所確保できる範囲になります。縄張り確保は死活問題なので、相手がオスでもメスでも縄張り内に侵入してくるとすぐに追い払ったり、追いかけ回したりします。縄張りの境界あたりで数10分間至近で威嚇や警戒のために背伸びやお辞儀を繰り返したり、一瞬の隙を見て一方が襲いかかり、絡み合いの激しいバトルを展開することもあります。
鳴き声は「ツィ−」「ツィツィツィー」「ツィッツィー」で、自転車のブレーキ音に似ているのと思うかもしれません。縄張り争い前に互いに牽制するために鳴き合ったり、繁殖期にオスとメスが鳴き合います

繁殖期は2月〜6月(年に3回!繁殖することもあり9月まで)。
求愛行動のパターンはいつも同じではありません。都市公園では、営巣場所が公園内でないケースが多く、川も護岸工事が進み、営巣できる土手がほとんどなくなってしまったからです。
求愛行動は、オスがメスの縄張りに進入して始まることもあれば、その逆の場合もあります。いずれの場合も最初のうちは、どちらかが縄張りから追い払います。次第にお互いが意識し合って受け入れるようになると、まず別の枝に止まり、鳴き合いながら接近、求愛飛翔とでも言うのでしょうか、メスの回りを飛び回ったり、後を追って近くに止まったり、やはり求愛行為の一つでしょう、オスはメスの前で頻繁に背伸びをしたりお辞儀をしたりして自己をアピールしますが、勿論縄張り争いとは違って襲いかかることはありません。オスは早々巣穴掘りを始め、メスを巣穴に誘います。やがてほとんどの時間を一緒に過ごすようになり、本格的な求愛行為が始まります。
最も素晴らしい光景である求愛給餌は、オスがメスのために魚を捕って与え、求愛する行為です。オスは魚を捕るとメスが待つ場所へ移動、口にくわえたまま鳴いてメスを呼ぶか、それに応えて鳴くメスのいる所へ運んで与えます。最初のうちは魚をくわえたオスが意地悪くすぐに渡そうとしないこともあります。また渡した魚をメスがうっかり落としてしまうことも。メスが魚を受け取ると、オスの求愛に応じたことになり、つがいの誕生となります。オスは歓喜の表現でしょうか、魚を渡した瞬間、得意げに胸を張り尻尾を上げます。巣穴堀りと求愛給餌を繰り返し、やがて交尾(大体求愛給餌の前後)します。メスがひたすら給餌を待っているときは、オスが近くに飛来すると、即反応して鳴きだし、催促するかのように羽を震わしながら繰り返し鳴きます
本格的な巣穴堀りはオスとメスが交代で行います。道具は勿論自慢の嘴です。掘った土はこれまた自慢の合趾足で後方へ蹴り出します。特に掘り始めが大変で、何度も嘴を立てて体当たりを繰り返します。かなりの重労働らしく、巣穴から出てくるとすぐに一休み。土手に直径6〜9cm、15%前後の勾配をつけて50〜80cmの穴を掘り、一番奥の少し広いスペースにやわらかい土や吐き出した魚の骨などを敷き産座にします。巣作りは10日前後で終わりますが、巣穴に入り向きを変えて出てくるようになるとほぼ完成状態です。通常は近くに幾つかダミーの穴を掘り、2度繁殖するときに使ったりします。穴掘り中は身体や嘴に付いた土を洗い落とすために何度も水浴びします。
卵は白で長径22mm、短径18mm、1日1個ずつ早朝に産卵します。卵数は4〜7個。産卵が終わると、交尾はしなくなり、抱卵が始まります。抱卵日数は約18日〜20日。抱卵は、日中は1時間程度交代で、夜間はメスが担当します。抱卵の初期は、巣の中にいる時間も短いですが、次第に長くなり、数時間出てこなくなります。抱卵時間の長いメスのお腹は白っぽくなります。オスは抱卵初期までは、メスのために餌を運びますが、いずれ給餌はしなくなり、メスはオスが抱卵している間に自分で採餌します。
孵化から巣立ちまでは22日〜26日で、育雛もオス・メス共同で行います。孵化後1週間前後は、雛が赤裸のため、メスが長時間産室にいて温めます。巣穴にいる数羽の雛に1日40〜50匹の魚を運びますが、雛も丸呑みするので、成長に応じて運ばれる魚は徐々に大きくなり、孵化後数日は小魚、4、5日後には普通サイズ、10日後にはかなり大きなサイズになります。早朝と夕方が給餌のピークで、親鳥は大忙しです。糞は液状なので垂れ流し、ペリットもそのままなので、巣の中はとても不潔で悪臭がたちこめていると推測できます。そんな汚い巣の中であの綺麗なカワセミが育つとは、ちょっと想像もできません。一度使った巣はすぐにまた使うことはないですが、同じペアであれば翌年再利用することはあるようです。

幼鳥は嘴が短くて先端と内側が白く、胸、腹部を中心に黒っぽいところが多く、足も黒いのが特徴です。身体の大きさ自体は親鳥とあまり変わりませんが、尻尾と嘴が短いので、すぐに見分けられます。鳴き声は親鳥と交信しているのでしょう、短く「ツィ」と、首や尻尾をピクピク動かしながらよく鳴きます。最低でも一月経たなければメスかオスの区別はつきません。孵化したばかりの雛の体重は3g程度ですが、15日もすると親鳥よりも体重が増えます。巣立ちの3、4日前から給餌回数を減らし、ダイエットさせて巣立ちを促します。巣立ちは薄暗い時間帯の早朝です。十分ダイエットできていないと、数メートルしか飛べなかったり、フラフラして落下してしまいそうな雛もいます。親鳥は巣立ち雛を、天敵に襲われないように縄張り内の木陰の目立たないところへ誘導し、公平に数回大きな魚を給餌しますが、2、3日後には自ら採餌させるために給餌回数を日に1、2回に減らします。給餌を催促する雛を追い払ったり、給餌の際にすぐに渡そうとしなかったりしますが、それは給餌の終わりを告げる行為でしょう。仲良くしている雛たちも、親鳥が餌を運んでくると、お腹を空かしているので一斉に飛び回って奪い合いを始めますが、そういうときに数羽の雛を同時に見ることができきます。暗くなってから塒入りし、一緒に並んで寝入ることもあります。
雛は親鳥が餌を与えなくなると、空腹に耐えられなくなって採餌を始めますが、事前に枝を噛んだりしているのはその練習のためでしょう
。実際に飛び込んで採餌を試みても、しばらくは空振りばかり、ようやく捕ったと思ったら、魚ではなく木っ端や葉だったり、それを食べようとして落としてしまったり、もちろん見事に魚を捕ることもありますが、胃袋に入る前に落としてしまったり等々、失敗を繰り返しますが、生き抜くために数日で上達します。そして親鳥は1週間前後で縄張りから雛を追い払うようになり、雛は独り立ちします。
ちなみに親鳥は巣立ちのタイミングで、2番子、3番子の準備を始めます。つまり巣立ち雛への給餌と同時期に、求愛給餌や交尾が見られるということです。

※大部分は実際の観察にもとづいて記載していますが、巣穴の様子などは分かりませんので、一部、カワセミに関する書物などを参考にしています。

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